傘の撥水加工は、雨水をはじき、快適な使い心地を実現するために欠かせない技術です。
長らくフッ素系撥水剤が主流でしたが、環境や人体への影響懸念から、フッ素フリーの流れが加速しています。
フッ素系撥水剤の問題点
従来の撥水加工では、PFOA(パーフルオロオクタン酸)やPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)などのフッ素系化合物が使用されてきました。これらの物質は、
- 環境中で分解されにくく、長期残留する
- 生体内に蓄積し、健康への影響が懸念される
といった問題点が指摘されています。
化審法による規制強化…でも傘は対象外
日本でも、これらの物質の製造・輸入・使用を規制する動きが進んでいます。
化審法(化学物質審査規制法)において、PFOAは2021年4月に第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入が原則禁止となりました。PFOSも2010年から製造・輸入が禁止されています。
ただし、ここで重要なのは、傘自体は化審法の規制対象外である点です。
化審法は、化学物質の製造・輸入・使用などを規制する法律ですが、傘は長時間肌に触れたり、口にいれるものではありません。そのため、傘に含まれるフッ素系撥水剤が規制対象となることはあっても、傘自体が規制されることはありません。
とはいえ、傘メーカーは、社会的な責任として、環境や人体への影響に配慮した製品作りが求められます。
そのため、多くのメーカーがフッ素フリー撥水剤への切り替えを進めているのです。
フッ素フリー撥水剤の現状
フッ素系撥水剤に代わるものとして、シリコン系、パラフィン系、アクリル系などの撥水剤が開発されています。
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シリコン系撥水剤: 比較的安価で撥水性も高いですが、耐久性が低いのが課題です。
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パラフィン系撥水剤: 天然由来の成分で安全性が高いですが、撥水性や耐久性が低い傾向があります。
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アクリル系撥水剤: 撥水性と耐久性のバランスが良いですが、コストが高いのが課題です。
これらの撥水剤は、フッ素系撥水剤に比べると、まだ撥水性や耐久性で劣る面もありますが、技術革新により性能が向上しつつあります。
傘の撥水 - これからの展望
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フッ素フリー撥水剤の進化: より高性能なフッ素フリー撥水剤の開発が期待されます。撥水性、耐久性、安全性、環境負荷の低減など、様々な課題を克服する必要があります。
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新たな撥水技術の開発: 撥水剤に頼らない、全く新しい撥水技術の開発も進められています。例えば、生地の表面構造をナノレベルで制御することで、超撥水性を実現する技術などが研究されています。
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環境配慮: 環境負荷の低い撥水剤や加工方法の採用が重要になります。リサイクル可能な素材の利用や、製造工程における水やエネルギーの使用量削減なども求められます。
傘メーカーは、化審法などの法規制に対応しながら、環境や人体に配慮したフッ素フリー撥水剤を採用していく必要があります。消費者は、傘を選ぶ際に、撥水剤の種類や環境負荷などを考慮することが重要になります。
フッ素フリーの撥水技術は、まだ発展途上ですが、今後の技術革新により、高性能で環境に優しい傘が普及していくことが期待されます。